コラム

Vol.3 アンカーリング


船舶が停泊するとき、風や潮に流されないように錨(いかり)を下ろします。岸壁ではロープで係留します。建築工事ではアンカーボルトを打ち込んで、材料を固定させます。同様に一度、他人に対する印象や、物事の印象が出来上がると、船が錨を下ろしたように、アンカーボルトを打ち込んだように固定してしまいます。これと同じようなことが人間の感情や心理にも起こります。このような心理的な現象を行動経済学では「アンカーリング(投錨・とうびょう)」と呼びます。現金がないのに、さもあるかのように思わせるのが「見せ金」です。テレビコマーシャルは商品や企業の名前を何度も聴視者に聞かせて覚えさせようとします。このような心理的な現象、作用は良いことにも、悪いことにも使われ、作用します。学校で教わる基礎的な知識や技能は生涯常識として有効に働きます。「昔覚えた杵柄(きねづか)。」は餅つきの時の杵の使い方、コツを体が覚えているということを言っています。「三つ子の魂百まで。」は良いことも、悪いことも、身についた癖や、性格はなかなか変わらないということを言っています。
しかし、日進月歩の技術革新や社会状況が変化する中で、様々な問題解決をしなければならないとき、記憶の中に投錨された「固定概念」は問題解決の妨げになります。このような状況にならないようにするためには多様な経験を積み、多様な考え方に柔軟に慣れることです。このような姿勢は人間の生きざまそのものです。国連では希少生物の保護と同じように、マイノリティ(少数派)、LGBT、少数民族の保護、多様な言語、文化の保護運動が続けられています。これは社会問題、経済問題からすでに哲学の世界、倫理の世界、宗教の世界に入っています。
それでは、どんなものでも受け入れなければならないのか。その答えは、すでに昔から、出ています。「自分の存在(思考、命、生活)を認めて欲しいように、他人の存在(思考、命、生活)も認めよ。」と。

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